命のつなぎ方〜学校全体で保護活動を進める福岡県 立花高校の取り組み〜
学校での動物飼育を通して、命の尊さや動物を大切にする気持ちを育てたい、という想いはあっても、適した環境が用意できなかったり、教師側の負担や知識不足等によって、政府が掲げる「情操教育」にまでたどり着いていない様子がアンケートから見えてきました。
一方で、従来の形の動物飼育はせずとも、命の尊さと真剣に向き合っている学校があります。福岡県 立花高等学校(以下、立花高校)が進めている「命のつなぎ方」ーーこの活動を始められたのは立花高校現主幹教諭の濱本秀伸(はまもとひでのぶ)先生と、進路指導に当たられていた徳久巌(とくひさいわお)さん。立ち上げられた経緯、これまでの活動の様子、子どもたちの変化などについて、徳久さんにお話をお聞きしました。
Contents
殺処分の現状を考えることから始まった「命の教育」
福岡県福岡市に位置する立花高校は、1957年に設立。「一人の子を粗末にする時、教育はその光を失う」という創設者の安部清美先生の格言が、今もこの学校の礎となっています。
特徴的なのは、こちらの生徒の7-8割が不登校経験者ということ。発達障害により学校へ行くことができなかった子どもも多く通っています。ですが、「できないことを嘆くより、できていることを認め合う」という考え方を大切にされ、「君は君のままで」という斉藤校長先生のもと、たくさんの子どもたちがこの学校で学んでいます。
心が温かくなる齋藤 眞人校長先生のメッセージも是非ご覧ください。
https://www.tachibanahs.net/blank-14
徳久さんが一般企業で勤務をされた後、進路指導員としてこの立花高校に関わりはじめたのが60歳の時。その後、2-3年生を対象に1ヶ月の就業体験を行うという話があり、中でも動物に関係する仕事を希望する子どもたちが多く、濱本先生から、やぎでも飼おうか、という話が出されました。そこで以前より犬猫の殺処分問題に心を痛めていた徳久さんは、この問題について考える授業ができないかと提案。濱本先生も賛同され、体験授業の一つに追加されました。これが「命のつなぎ方」の活動の始まりです。今から4年前、2014年のことでした。
動物愛護管理センターで涙を流す子も〜そして初めての猫の保護〜
授業の中では動物愛護管理センターへ見学にも行きます。実際に殺処分されるところは見ることはありませんが、部屋の中には、自分達の運命を知り、怯えた表情で片隅に寄り添って座っている犬たちがいました。その様子を見て涙を流す子、怒りで壁を叩く子もいたとのこと。人間のわがままにより犠牲になる動物たちの現状は子どもたちの心に大きく響いたのではないでしょうか。そして2016年のある日、生徒が道で猫を保護し、初めて学校に連れてきたのでした。
とりあえず病院へ連れていき診てもらった後は、ケージに入れて徳久さんのいる進路指導室に。「普段はガランとしているこの部屋が、猫がいる!と見に来た子どもたちでいっぱいになりました。普段はつっぱっている子どもも、ものすごい笑顔になったり、その後の里親探しでは、緘黙(かんもく:機能的な障害は無いが発語しない)の子も積極的にポスターを作ったりして関わるうちに、色々なことができるようになりました」(徳久さん)。この授業を通して、動物に関係する専門学校へ進学した子もいたようです。子どもたちは純粋です。目の前に助けなければいけない命があれば、真剣に向き合います。これこそが動物飼育の基本の心ではないかと改めて感じました。
(文化祭の時に子ども達が制作したセンターの見学の様子)
保護活動費を学校の予算で充当
2014年に「命のつなぎ方」の活動を始められて以降、これまでに8匹の猫と熊本地震で被災した2匹の犬を保護し、里親を探すところまで責任を持って学校全体で取り組んできました(現在、1匹は里親探し中です)。ただ、学校で保護をすると言っても、お金はかかります。最初は職員の方に寄付を募りながら、医療費や餌などを賄っていたようですが、途中から学校が年間予算として出してくれることに。その予算によって小屋も用意し、飼育環境を整えてきました。
近くに住む職員が朝夕2回、保護小屋へ行きお世話も。立花高校では、学校全体で保護活動に取り組まれています。
座学だけではなく、どこまで手を差し伸べられるかも考える
こうした殺処分の問題を既にテーマとして取り上げられているところ、これから考えようとしているところもあるのではないかと思いますが、そうした方達へ徳久さんが伝えたいことは「この問題に取り組みだしたら、座学だけではすまない。動物を保護することが必要になった時にどうするかということも考えておかなければいけない」ということ。
座学だけではなく、実際にどこまで手を差し伸べられるか。全て学校で対処しようとするのではなく、地元のボランティア団体との連携も有効です。この「命のつなぎ方」の活動では、長年犬猫の保護活動に取り組まれている小野珠美(おのたまみ)さんが専門家の立場から外部講師として、その知識や経験を子どもたちにたくさん伝えながら、一緒に活動をされています。
命を扱うということは、とても大変なことです。責任も伴います。だからこそ、大人も真剣になって取り組み、その姿勢を子どもたちに見せていくことの大切さを強く感じました。
学校での動物飼育のあり方について
立花高校のように動物を保護するというところまでやるのは、なかなか大変なことかもしれません。ですが、真剣に命と向き合うことができれば、それによって子どもたちは大きく変わります。本来の命の教育とは、ただ、当番の時に餌をあげるだけ、というものではないはずです。「これまで飼ってきたから」ではなく、学校で飼育されている動物たちがどのような状況にあるのか、それに対して子どもたちはどのように感じているのか、改善の余地はないか、他にどのような方法があるかなど、改めて考えてみても良いのではないかと思います。
子どもたち誰もが持っている純粋な心を守っていくためにも、まずは大人から、命についてもっと真剣に考えていく機会を増やしていくことも大切なのではないでしょうか。
関連記事
ヴィーガン子育て編集部
※現在、日本では「VEGAN」を「ヴィ―ガン」「ビーガン」の2通りで表記されていますが、意味は同じです。当サイトでは「ヴィ―ガン」で統一しています。