有機給食への道 Vol.2~世界の有機農業の現状とこれからの有機農業を支える「参加型認証制度」~

<有機給食への道>と題してお届けしているこちらのシリーズでは、子どもたちの健康と未来を守るために、私たち一人ひとりにできることを考えていきます。

有機給食への道シリーズ(随時公開中!)
Vol.1:~そもそも有機栽培とは?~
Vol.2:世界の有機農業の現状とこれからの有機農業を支える「参加型認証制度」
Vol.3-Ⅰ:子どもたちの五感を育み生きる力を育てる~長野市上高田保育園
Vol.3-Ⅱ:子どもたちの五感を育み生きる力を育てる~長野市上高田保育園
Vol.4-Ⅰ:人生を楽しむための基礎力を育む~東広島シュタイナーこども園さくら~
Vol.4-Ⅱ:人生を楽しむための基礎力を育む~東広島シュタイナーこども園さくら~

有機給食への道Vol.1では、有機農業のメリット、デメリットについてお伝えしました。今回は世界の動向と日本の現状に目を向けてみたいと思います。有機農業の課題を理解しながら、私たち消費者にできることを考えていきましょう。

拡大する世界の有機農業と日本の現状

農林水産省のまとめによると、世界の有機農業取組面積は1999年から2016年の間に約5倍に拡大していますが、日本の有機農業取り組み面積割合はわずか0.2%と低いのが現状です。

世界の有機食品市場の売上げも年々増加しており、今後も成長が期待されている一方で、日本人の1人あたりの年間有機農産物消費額は8ユーロ(960円)と、有機農産物が普及しているとは言えません。年間有機農産物消費額が最も高いのはスイスの274ユーロ(32,880円)で、日本人の約34倍にものぼります。(1ユーロ=120円で計算)

出典:農林水産省「有機農業をめぐる我が国の現状について」 

有機農業をめぐる各国の動き

有機農業は消費者の健康志向の高まりは勿論、SDGs(持続可能な開発目標)(※)達成に貢献できるとして注目されており、世界中で様々な取り組みが行われています。

有機農業100%のインド・シッキム州

インド北東部に位置するシッキム州は、2003年に化学肥料・農薬の使用を禁止し、2015年12月末に全ての農地である約7万5000ヘクタールを有機農業へ転換しました。また、州をあげてオーガニック観光旅行を進めており、有機農業が経済発展をもたらすためのツールとしても期待されています。

アメリカで求められる有機小麦

アメリカでは有機栽培の小麦が健康意識の高い消費者に求められています。収穫直前に除草剤をかける「プレ・ハーベスト」という農法が普及したためです。小麦自体が枯れて軽くなるので、収穫作業がラクになり、乾燥させる手間も省けます。日本でお米を天日干しする必要がなくなるようなイメージです。農作業が効率化する一方で、小麦には農薬が高濃度で残留するようになりました。アメリカの消費者が買わなくなった小麦を輸入するかのように、日本政府は2017年のクリスマス、この農薬の残留基準を大幅に緩和しました。「一体だれのために」と叫びたくなります。

欧米で広まるアグロエコロジー

近年、欧米では「アグロエコロジー」(agro=農業とecology=生態学を合わせた造語)という考えが広まっています。イメージは「自然と共生する昔ながらの農業」で、日本で言う「自然栽培」に近いと言えるでしょう。自然栽培では、農薬や除草剤、化学肥料はもちろん有機肥料もいっさい使いません。植物が本来持っている自然の力を引き出して健康で安全な作物を育てます。

代々受け継がれてきた種子を大事に守りながら多様な品種の作物を育て、自然界の循環する生態系の原理を用いて環境や動植物に負荷をかけることなく次代へつなぐ。人間も地球の一部であるとする考えを、環境や農業分野だけでなく経済や社会、文化、暮らしに当てはめて実践する運動も広く「アグロエコロジー」と呼ばれています。

EUの新たな食料政策「農場から食卓まで(F2F)」戦略

2020年5月20日、欧州委員会は、生産と流通、食品廃棄物の削減、健全な食生活まで総合的な改革を目指したFarm to Fork Strategy(農場から食卓まで(F2F)戦略)を打ち出しました。2030年までに農薬と家畜用の抗生物質を半減、有機農業の面積を25%に拡大(現在の約3倍)し、生物多様性を保護するために農地の10%を生け垣や野草の生息地へ戻すことなどが盛り込まれています。また、健全で栄養のある食を確保することで慢性病を予防し免疫力を高められるように、店頭で販売される全食品に栄養表示を義務化することも決定しました。

地球温暖化による異常気象や生物多様性喪失のリスクを回避するには、小規模家族農業によるアグロエコロジーしかないとの考えも見られます。新型コロナウイルス禍の影響もあって世界では、エネルギーと資材、労働力を海外に頼るグローバル経済や、化学物質と化石燃料に頼る大規模な単一栽培農業や工場的畜産を見直す動き、免疫力を高める健全な食生活をめざす動きが目立っているようです。

※SDGsとは?

持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。

出典:外務省 SDGsとは? 

日本で有機農業が広がらないのはなぜ?

ご紹介したように日本は有機農業後進国と言えますが、有機農業が広がりを見せないのはなぜか、生産者、消費者、それぞれの目線で考えてみましょう。

生産者にとっての課題

まず、生産者から多く聞かれるのが有機JAS認証を取得するのにかかる手間とコストです。『有機給食への道vol.1』でもご紹介したように、農産物に有機JASマークを表示するには認証の取得が必要ですが、その取得と継続のためには、初年度に認定申請料と検査料、2年目以降に確認申請料と確認調査料、プラス検査員交通費などの費用が必要なうえ申請書類も煩雑で、個人の農業者にとって大きな負担になっています。(※調査費用:個人生産者の場合、圃場面積50aにかかる調査費用は50,000円程度。)

そのため、有機栽培はしていても、認証は取得していないという生産者も多くいます

出典:有機JAS認証取得ガイド 調査費用について

また、栽培に手間がかかるというのも大きな課題です。有機栽培では除草剤を使用しないため、慣行栽培に比べて除草作業にかかる負担が大きいという特徴があります。有機農業等の栽培面積を縮小する理由として生産者から最も多く聞かれるのが「労力がかる」との声です。また、せっかく労力をかけても、それに見合う所得が得られないとの声も聞かれます。

消費者にとっての課題

次に消費者の目線で考えてみましょう。

農林水産省の調査では、「オーガニック農産物等を購入したい」と回答した人は64.6%にのぼり、その需要は高いことが分かります。一方で、農産物を購入する上で求める条件として、半数近い人が「近所や買いやすい場所で販売されていること」と回答しています。日本の一般的なスーパーマーケットに並ぶ農産物は、各自治体などで定めた出荷規格(※)をクリアした形や大きさの揃った慣行栽培の農産物ばかりで、有機農産物を気軽に手に取れる環境がないことが消費拡大に繋がらない要因の一つとして挙げられます。

世界にはオーガニックスーパーマーケットが多くあり、誰もが親しみやすく、気軽に手に取ることができる環境があることが日本との大きな違いと言えます。

※出荷規格とは?

大きさや重さの基準「S・M・L」や、品質基準「色や形の基準「A・B・C(優・良・並)」などが細かく定められており、それらをクリアした農産物がスーパーマーケットに並びます。

世界のオーガニックスーパーマーケット

・Alnatura(アルナトゥーラ)
直営店はドイツ国内の62都市に全部で133店舗を展開。

・Whole Foods Market(ホールフーズマーケット)
アメリカを中心に、270店舗以上を展開。

・Bio c’ Bon(ビオセボン)
フランスを中心にヨーロッパで140店舗以上を展開し、2016年日本初上陸。

出典:27年度 農林水産情報交流ネットワーク事業 全国調査 有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査 

有機農業拡大のカギ!!「PGS」(参加型認証制度)とは?

有機JASマークは私たち消費者が商品を選ぶ基準にもなりますが、一方で、その取得には手間やコストがかかることから、小規模農家は有機農業に取り組んでいるにもかかわらず、認証を取得しないケースも多くあります。そこで、一部の生産者が取り組んでいるのがPGSと呼ばれる参加型認証制度です。

PGSは、Participatory Guarantee Systemの略で、IFOAMによって国際的に認められた簡易な有機認証制度です。国が認証を行うJASとは異なり、地域ごとに消費者と生産者が中心になって農場の調査や認証を行い、互いの信頼でつながる仕組みです。IFOAMでは、PGSのメリットを以下のようにあげており、小規模農家が参入しづらい有機JASの仕組みや、有機農産物を購入する機会の少ない日本の市場拡大を進めるのに期待が持てます。

PGSのメリット

★小規模農家の市場参入の改善
★消費者への教育効果・意識向上効果
★直接販売等・ローカル流通の発展
★エンパワーメント(※)
(※社会的弱者に夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させること)

IFOAMとは?

IFOAMは1972年にパリ近郊で設立されました。それ以来、世界中で有機農業の普及に努めてきた草の根の会員組織(国際NGO)です。現在世界100カ国以上の約800以上の団体がIFOAM に加盟しています。

出典:グローバルオーガニックネットワーク 有機農業の新しい動きについて-参加型保証システム(PGS)

日本でも、「PGS」を進めていこうという動きが広がりつつあります。PGSが広がることで、「地域農業」を中心とした人と人との交流を活発にすることができます。畑作業の手伝いももっと自然な形でできるようにもなりますし、消費者は身近なところで新鮮な野菜を購入することができるようになります。PGSは生産者と消費者の信頼関係があって初めて成り立つもの。これから有機農業を広げていく上で、「PGS」は大きなカギになるはずです。今後、PGSの動向についても取材をしていきたいと思います。

さて次回は、有機給食を取り入れている長野県長野市にある素敵な保育園についてご紹介します。

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ヴィーガン子育て編集部

監修:ソーシャルライター 吉田 百助
「国民の食料にもう国は責任を持たない」とでも言うように主要農産物種子法を廃止した国の農政を憂い、農林水産省関東農政局を早期退職。社会の課題を解説するソーシャルライターとして執筆とボランティア活動を行う。信州オーガニック議員連盟、NAGANO農と食の会などで、子どもたちの未来のために取り組んでいる。

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