有機給食への道 Vol.3-Ⅰ 子どもたちの五感を育み生きる力を育てる~長野市上高田保育園~

<有機給食への道>と題してお届けしているこちらのシリーズでは、子どもたちの健康と未来を守るために、私たち一人ひとりにできることを考えていきます。

有機給食への道シリーズ(随時公開中!)
Vol.1:~そもそも有機栽培とは?~
Vol.2:世界の有機農業の現状とこれからの有機農業を支える「参加型認証制度」
Vol.3-Ⅰ:子どもたちの五感を育み生きる力を育てる~長野市上高田保育園
Vol.3-Ⅱ:子どもたちの五感を育み生きる力を育てる~長野市上高田保育園
Vol.4-Ⅰ:人生を楽しむための基礎力を育む~東広島シュタイナーこども園さくら~
Vol.4-Ⅱ:人生を楽しむための基礎力を育む~東広島シュタイナーこども園さくら~

有機給食への道Vol.1とVol.2では、有機農業のメリット・デメリット、世界の動向と日本の現状についてお伝えしました。

今回は、長野県長野市に有機食材を使った給食を出している保育園があるとお聞きし、お話を伺いに行ってきました。

長野市上高田保育園は1980年に設立。長野市の中心地でありながら、そこはたくさんの木々に囲まれた温かい雰囲気の漂う保育園です。「子どもたちの五感を育む」ことを大切にされ、園内は全て木のぬくもりが感じられる造りになっています。

園庭では子どもたちだけでなく職員の皆さんも裸足で運動会の練習に励む元気いっぱいな姿が見られました。

中心にいる先生が藤原陸明園長先生

そしてなんとこの園庭も時期がくると水田に変身。ここでお米も育てており、園庭の端には今年収穫された稲がはざがけされていました。

今回は、有機給食の取り組みだけでなく、子どもたちの生きる力を育むための上高田保育園の取り組み、そして藤原睦明(むつあき)園長先生の想いを2回にわたりご紹介します。

農業と共にある子どもの育ち

藤原園長先生は上高田保育園の2代目。お父様の後を継がれて既に19年が経ちます。「食べるものが体を作る」という考えのもと、当初より食にこだわり、「バケツ稲つくり」をはじめて以来、園庭で稲を育てたり、長野市中条の田んぼを借りて稲や野菜を育てる活動を続けています。もちろん全て無農薬。自分たちで育てたお米や野菜を園で調理して食べることで、子どもたち自身も食の成り立ちを肌で感じていくことができるようになります。

園の行事は5月の田植えにはじまり、ホウネンエビの観察、かかしづくり、かかしあげ、稲刈り、収穫祭、もちつき、そして味噌作り、と一年中大忙し。農作業は保護者も交えて取り組まれており、「なかなかこういう経験はできない」と保護者の方からも大変好評のようです。

今年、園庭の水田で収穫したお米。はざがけも子どもたちがやります。

「“食にこだわる”と言われるが、こだわりではなく、本来はこれが“当たり前”の姿でなければいけない」という藤原園長先生の言葉に、時代とともに生き方が大きく変わってきてしまっているということを改めて感じました。

現在は、野菜は全て農薬や化学的な肥料を使わない地元長野市の野菜を取り扱われているカネマツ物産から仕入れているという徹底ぶり。子どもたちに安心・安全なものを食べてほしいという想いをしっかりと形にされています。

有機給食は高い?!―まずは何が大事かを考えることから―

「有機給食は理想だけれど、コストが高くて難しい」という声はよくあります。有機食材に切り替える上で食材の調達コストがネックになっているケースがほとんどだと思いますが、上高田保育園では食材の調達はカネマツ物産がしっかり対応をされています。

次にコスト。有機食材で全てのメニューを用意するには、一般的な給食と比べるとやはり割高ですが、その分を保護者から徴収するということはされていません。その差額は「給食は保育の一環」と考え、運営費から給食のコストをねん出しているとのこと

「子どもの育ち」のために、まずは体と心を作ることが何よりも大切。「その体と心を作るものが「食」なのだから、そこにまずは重点を置かなければならない」(藤原園長先生)との考えから、予算が組まれています。予算をどう組み立てるのかも、子どもにとって何が大切なのかの優先順位で考えていけば、必然と使い方も変わってきます。コストがかかるから無理、とそこで諦めてしまうのではなく、もしかしたらやり方があるかもしれない、と根本から見直してみることで、可能性も広がるのではないでしょうか。

有機給食にすることで、まずは大人の意識を変える

有機給食にすることの大きなメリットは、「美味しい」だけではありません。有機給食にすることで、大人自身の食に対する意識が変わります。上高田保育園では、これまで保護者向けに食に関するセミナーを何度も開催されてきました。学校給食を変えたことで荒れた学校を非行ゼロへ導いた大塚貢さん(教育・食育アドバイザー。著書 給食で死ぬ!他多数)を招いて講演会を行われたこともあります。

なぜ有機なのか?というところから考えていくと、食べることと体や心の健康のつながりに意識が向き、そして必然的に「土の大切さ」にたどりつきます。土作りを丁寧に行えば力強い野菜ができる、ということを体で感じられると、日々の自然とのかかわり方も、考え方も変わっていきます。今、こうして環境問題が大きく取り上げられている今だからこそ、日々の食のあり方について考える機会を与えられるのは、親子共に必要なのではないかと思います。「大人が変われば子どもは変わる」(藤原園長先生)――子どもに色々がんばらせる前に、まずは私たち大人が日々の生活を見つめ直してみることが必要かもしれません。

「みんなで一緒にいただきます!」をしない!―子どもの主体性を重んじる―

取材当日、運動会の練習が終わると年少さんから順次給食の準備を始めていました。天気の良かったこの日は、みんなで机をテラスに出して青空給食。

子どもたちが準備をする様子を見ていて気が付いたのが、「いただきます!」の号令がないということ。

その理由は、「主体的に動くことを大切にしたいから」。みんなを待つ必要はなく、準備ができて食べたくなったら食べる、というのがこちらの園の方針です。 以下は、藤原園長先生のお話です。


「食べさせる、寝させると言われますが、子どもは本来食べたくなれば食べるし、寝たくなれば寝る。自分で選択することが大事であり、その力がないと自分の人生を自分で拓けません。

よく遊べばよく食べます。よく食べればよく寝ます。子どもはこの力を持っています。でもそれをできなくさせているのが、今の環境です。だからこそ、自分で感じる力を育てるためにも『五感を鍛える』ことを大切にしています。そして、そこから自分の気持ちを表出するということも覚えていきます。」

生きる力を育む、とは色々なところで言われることですが、幼少期は何よりもこの「遊んで、食べて、寝る」という本能で動く部分をしっかり鍛えることが何よりも大切。でも、今は外でしっかり体を動かす機会も少なく、食事もお菓子でおなかがいっぱいになってしまい、その結果、しっかり眠れない、ということも多くあります。

上高田保育園が有機食材を使う理由は、安心・安全だから、という理由だけではなく、この「五感を鍛える」ということにつながっています。将来のためにと色々習い事をさせるご家庭も多いですが、まずは生きていくための土台が育っていないと、途中でポキッと折れてしまいます。

次回は上高田保育園の運動会の練習風景から、今、子どもたちに必要なことについて考えてみたいと思います。

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ヴィーガン子育て編集部

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